JR四国は平均約13%の値上げとなる運賃改定を国土交通大臣に認可申請し、2023年春から実施することで年間20億円程度の増収を見込みます。
通勤定期は約28%値上げ
運賃値上げの背景として同社の極めて厳しい経営状況を挙げており、現在の運賃水準では中長期的な事業継続が困難であるとしています。2021年度決算は営業損益で202億円の赤字を計上しており、国からの実質的な補助金である経営安定基金の運用を充当してもなお、33億円の経常赤字となっています。
同社はグループ全体で増収努力や経費節減に取り組んでおり、スマートフォンアプリを活用した新チケットシステムなど、利便性向上や省力化・省人化につながる施策の導入を進めています。また、地域と一体となって利用促進に努めているほか、MaaS(Mobility as a Service)の考え方のもと、鉄道やバスなどと連携した「公共交通ネットワークの四国モデル」を追求しているとのことです。
しかしながら、今後もさらなる人口減少を受けて鉄道運輸収入は減少が続くと想定しており、オンライン会議やテレワークなどの新しい生活様式の定着という元に戻らない変化も加わり、厳しい収入見通しを想定しています。一方で、安全・安定輸送のため、安全投資や修繕費など固定費の確保は必須であり、経費削減には限界があることから運賃改定を申請したと説明しています。運賃値上げは1996年(平成8年)1月以来の27年ぶりで、輸送収入を拡大することにより赤字幅の縮小を目指します。
申請によると、幹線の初乗り運賃は現行の170円から改定後は190円に値上げされます。100kmまでの普通運賃に新たに「対キロ区間制運賃」が導入され、一定の賃率ではなく、バスなど他の交通機関を考慮した運賃水準の設定となります。例として、徳島線の徳島駅〜石井駅間は現行の260円から、330円へと70円値上げされますが、これは並行する徳島バス(本社:徳島市)の路線バス運賃と同額です。また、高徳線の高松駅〜志度駅間は360円から430円へと70円値上げされ、高松琴平電気鉄道(ことでん)志度線の並行区間と同額になります。
また、現行と同様にキロ数に賃率を乗じて算出する101kmからの運賃については、200kmまでに適用される賃率が現行より3円引き上げられます。201km以上に適用する賃率は据え置かれ、普通運賃の平均改定率は12.51%で申請されています。
普通運賃の改定に加え、定期運賃の割引率も見直されます。これにより、全体の改定率は普通運賃よりも大きく、通勤定期で28.14%、通学定期で22.43%に設定されています。また、地方交通線の一部区間に適用されている「特定運賃」が廃止されます。この特定運賃は、1996年の運賃改定において地方交通線に「擬制キロ制」が導入された際、値上げ幅が大きくなる区間に対して激変緩和の目的で導入されたものです。25年以上経過し、その役目を終えたと判断され、改定後は通常の運賃計算方法が用いられます(改定前後の主な区間の普通運賃など詳細は下の図表を参照)。
8000系特急車両をリニューアル
そのほか、一部区間の特急料金についても改定されます。自由席は50kmまで、指定席は25kmまでの区間に設定されている特定特急料金が対象で、120円〜230円値上げされます。これにより、25kmまでの自由席以外の特定料金は廃止となり、通常のA特急料金と同額になります。なお、中長距離区間の料金改定については過重な負担となることや、都市間高速バスなどとの競争が激しいことも踏まえ、現行料金が据え置かれます。
同社は経営合理化プロジェクトとして、車両の検査・修繕を行う多度津工場(香川県多度津町)を約120億円かけて近代化し、老朽化した建物や機械を更新するとともに、自動化・ロボット化による生産性向上も目指します。製造から約30年経過した予讃線の特急電車8000系は2023年度から大規模リニューアルされ、電子機器等の老朽更新とともに、バリアフリーへの対応やコンセント増設などで快適性・利便性の向上が図られます。また、老朽化したキハ40形気動車などの置き換え用として、新型ローカル気動車の開発・導入が予定されています。
サービス向上策として、きっぷを事前購入できる新しいスマートフォンアプリの導入を予定しており、紙のきっぷを持たずに乗車可能なシステムを構築することで利便性を向上させつつ、駅での販売や出改札業務の省力化・省人化も狙います。また、列車の遅延や運休について映像と音声で知らせるデジタルサイネージの整備も進められます。一部の駅では、駅舎側ホームへの列車発着本数を増やせるよう信号設備の改良が行われ、こ線橋を渡らず列車を利用できる機会が増加します。